自分は普段は小説はほとんど読まない人なのですが、どんよりとした暗めな作品を読みたいとなんとなく思って手に取った作品が面白かったので紹介します。
その小説が「ふがいない僕は空を見た」です。
窪美澄による小説で、第8回R-18文学賞を受賞しています。
自分はつまらないと思った小説は途中で読むのを諦める人ですが、この小説は結末が気になり夢中でページをめくっていました。
あらすじ
実写版映画の予告編動画です。
学校帰りの卓巳は、いつものように人妻の里美が暮らすマンションで密会する。二人はコスプレをして、お互い『むらまさ』と『あんず』というアニメキャラになりきって愛しあう。きっかけは初めて卓巳が同人誌即売会に行った時に里美から声をかけられて親しくなり、ほどなくして不倫関係となる。里美の「計算してるから避妊しなくていいよ」との言葉に甘えて、快楽の日々を送る卓巳。だがしばらくして卓巳は、同級生から告白されたのを機に里美に別れを告げる。しかし後日、店でベビー用品を見て回る里美を偶然見つけた卓巳は、自分の子供ができたのかと動揺する。
卓巳の家は、助産師の母・寿美子が助産院を開業しており、蒸発した父の代わりに家計を支える。助産院には時々、偏った考え方の妊婦や認識の甘い妊婦が来院して寿美子や助手・光代を困らせる。また、卓巳の友人・良太は団地住まいで、一人で認知症の祖母の面倒を見ながらバイトに明け暮れる。良太のバイトの先輩・田岡は、良太を気にかけて今の生活から早く抜けだすために何か行動した方がいいと助言する。一方、良太と似たような境遇の純子は、田岡の助言なんて聞くだけ無駄と人生を諦めている。
遡ること数ヶ月前、里美は愛する夫・慶一郎との間に子供ができず、不妊治療を始める。孫を熱望する姑・マチコによるプレッシャーや夫婦間の体への負担の差から、里美は徐々に慶一郎への愛情が薄れていく。里美はストレス解消のため好きなアニメのコスプレに夢中になり、しばらくして出会ったのが卓巳だった。里美は、心のすき間を埋めるように逢引を重ねては卓巳に溺れていく。しかし、ある日里美の行動を不審に思った慶一郎に寝室を隠し撮りされ、卓巳との不倫がバレてしまう。
そんなある日、ネット上のアニメのファンサイトに卓巳と里美のコスプレ性行為動画や画像が掲載される。卓巳が突然学校を休みだし、寿美子は、ファンサイトの閲覧者から届いた助産院宛のメールで事の真相を知る。良太が学校に行くと自身の机にその画像のカラーコピーが入っており、卓巳を心配する。後日そのコピーは、日々の憂さ晴らしのために純子が入れたものだと偶然知る良太。しかし、良太は人生への絶望感から歪んだ感情が生まれ、翌日純子と二人で学校中に大量のコピーをバラ撒いてしまう。*2
この小説は全5編に分かれていて、普通は一人の視点からずっと物語が展開されますが、
第1編 「ミクマリ」は不倫関係を抱えた高校生、卓巳の視点で
第2編 「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」は卓巳の不倫相手で不妊問題を抱えている里見の視点で
第3編 「2035年のオーガズム」は卓巳に思いを寄せていて、家族が宗教団体にハマり問題を抱えている七菜の視点で
第4編 「セイタカアワダチソウの空」は卓巳の友人で団地で貧困生活を送っている福田の視点で
第5編 「花粉・受粉」は助産院を営んでいる卓巳の母の視点と、それぞれ別の登場人物の視点で語られているのがこの小説の大きな特徴です。
感想
最初は卓巳が里見とのセックスを終えた後に普通に家に帰ってしれっと家族に溶け込まなくてはいけないという絶望感と不倫問題を隠した卓巳の心の闇が描かれていましたが、小説を読んでいく度にその周りに関わっている人物もそれぞれ心の闇を抱えていること分かるというところがうまくできているなと思いました。
福田の「何で自分を生んだの?」や卓巳のセックス画像が学校に流出して卓巳が引きこもりになったときの「自分だけ不幸なフリすんな」はウルっと来ました。
卓巳の母親が卓巳の問題を知ったときの「卓巳は絶対に死なせない」というセリフからも分かるようにこの小説では誰もがみんな心の闇を抱えているけれどその闇は一生拭えない。それでも前を向いて進むしかないということを伝えたかったのではないかと思います。
最後に卓巳がそれを受け止めて学校に行くようになりハッピーエンドで終わったところには少し安心しましたね(笑)。
命や性など人間にとって切っては離せないものが扱われていながらも、最後までいい意味で暗い気持ちにさせられた小説でした。
暗い気持ちになりたい方や心の闇を拭えない方におススメです。
是非読んでみて下さい。
![]() ふがいない僕は空を見た (新潮文庫) [ 窪美澄 ]
|